【SMILE☆】 第三十三話
心臓がドクドクと早鐘を打つ、…こんな感情久しぶりに感じる。最後はきっとそう、あの時彼と別れる間際の瞬間。
今日はデート。いつも農作業と学校の両立で忙しいアッシュが、久々に休みを取れてあたしと一緒に過ごしてくれるんだって! 今日一日アッシュと過ごせる、そう考えるだけで胸が躍る。
「…ねね、今日はどこ行こうかっ」
俗に言う“恋人繋ぎ”をしながら歩く2人は傍から見ても正真正銘のバカップルだ。…本人達に自覚は全くと言って良い程無いようだが。
そして正直アイラと過ごせるだけで良かったアッシュは、行き先を考えていなかった。アイラからの質問に言葉が詰まる。考え込むアッシュに、アイラは驚きの一言を言った。
「うーん、特に行く場所も無いし… 皆も呼んで大ちゃん家押しかけちゃおう!」
満面の笑みでそう言い放った自らの彼女を見て、アッシュの顔にも思わず笑みが浮かぶ。それを肯定とみなしたのか、アイラは「早速連絡しないと!」と言って携帯を取り出し、いつものメンバーにメールを送った。ちなみに大樹本人には秘密のようだ。
大樹がいなかったら、という選択肢は無いのかとふと感じたが、その場の雰囲気を壊すようだったため口に出すのはやめておいた。その判断が自分達の運命を狂わすことを知らずに。
待ち合わせ場所の、大樹の家近くにある公園へ行けば、もう全員が集まっていた。翔、アイン、和、松っち、そして何故かシュタ。
「皆遅くなってごめんねーっ」
アイラがそう叫べば、全員が此方を振り向いた。あまりにも揃っているその動作に、いつか見た犬のサーカスを思い出し思わずクツクツと笑いが込み上げてきた。不審な目で見てくるアイラを尻目に、アッシュは走り出した。
「あ、ちょ、アッシュ待ってってばっ」
(笑顔が溢れるたびに)(虚しさも顔を出すの)